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岸田総理の減税政策が地方財政に与える影響

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【この記事で分かること】

  • 国の減税策が地方財政に与える影響
  • 所得税の減税も地方財政に影響を与える事実
  • 地方税の減税が地方に与える「マクロ」「ミクロ」の影響

皆さん、こんにちは!まゆの地方自治情報局(@mayumist_lg)です!

2023年秋、政府は、所得税・住民税の定額減税や、低所得世帯への給付などを盛り込んだ、新たな経済対策を決定しました。

国の経済政策は、当然、地方自治体の行財政運営にも大きな影響を与えます。

とりわけ、多くの自治体の財政課や税務主管課が気に掛けているのが、「減税が自治体財政に与える影響」だと思います。

本日は、国と地方の両方で公務員を経験し、現在は地方自治体向けのコンサル業務にかかわる私・まゆが、所得税・住民税の減税が地方財政に与える影響について、お話ししようと思います!

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経済対策で示された「減税」の概要

令和5年(2023年)11月2日、政府は「デフレ完全脱却のための総合経済対策~日本経済の新たなステージに向けて~」と題した、新たな経済政策を打ち出しました。

この中では、既にマスコミ等でもその方向性が報じられていましたが、「所得税・住民税の減税」についても盛り込まれることとなりました。

経済対策の中で書かれた、「減税」の概要は、次のとおりです。

 賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和するため、デフレ
脱却のための一時的な措置として、国民の可処分所得を直接的に下支えする
所得税・個人住民税の減税を行う。過去2年間で所得税・個人住民税の税収
が 3.5 兆円増加する中で、国民負担率の高止まりが続いてきたことも踏まえ、
この税収増を納税者である国民に分かりやすく「税」の形で直接還元するこ
ととし、令和6年度税制改正として本年末に成案を得て、3兆円台半ばの規
模で所得税・個人住民税の定額減税を実施する。

物価高に最も切実に苦しんでいる低所得者には迅速に支援を届けることと
し、物価高対策のための「重点支援地方交付金」の低所得世帯支援枠を追加
的に拡大して、支援を行う。

令和6年度税制改正による所得税・個人住民税の定額減税とこの住民税非
課税世帯への支援は、支援の手法、対象となる所得層、実施時期が異なる中、
両支援の間にある者に対しても丁寧に対応することとし、令和6年度税制改
正と併せて本年末に成案を得る。

ここから分かる実務上のポイントは、

  1. 定額減税は、国税である所得税と、地方税である住民税の両方で行われること
  2. 令和6年度税制改正に反映して、来年度からただちに実施すること

の2点となります。

まゆ
まゆ
それにしても、経済対策のPowerPoint資料、デザインセンスなさ過ぎませんか…?
とても読む気が起こらない…
たかし
たかし

所得税の減税が地方財政に与える影響

さて、今回の減税が地方財政に与える影響について、順を追ってみていきましょう。

まずは、所得税の減税について。

え、所得税は国税だから、地方には影響ないでしょ?

と思ったそこのアナタ、甘いです。

所得税は、その一定割合が、地方交付税の原資となっています。従って、

所得税が減税されると、地方交付税の原資が減る

という形で、地方財政への影響が生じます。

地方財政計画の歳出が変わらないことを前提にすると、地方交付税の原資が減れば、地方財政計画の財源不足が発生します。

仮にこれに対応しきれず、折半対象財源不足が生じてしまった場合、減収分を臨時財政対策債で対応しなければならなくなります。

臨時財政対策債の償還は、マクロで見ると地方で負担しなければならない経費ですので、臨財債の規模が膨らむと、後年度の地方財政にマイナスの影響を生じさせてしまうのです。

住民税の減税がマクロの地方財政に与える影響

続いて、住民税の減税について、見ていきます。

ただ、住民税の減税については、

地方財政全体に与える「マクロ」の影響と、個別団体の予算編成に与える「ミクロ」の影響を分けて考えないと、論点がぐちゃぐちゃになってしまう

ので、ここをしっかり分けて見ていかなければなりません。

まずは、マクロ…すなわち、地方財政全体への影響を見ていきます。

住民税の減税は、地方財政計画上は、「地方税の減収」という形で表れます。

従って、こちらも、地方財政計画の歳出規模が変わらないことを前提にすると、何らの対策を講じなければ、地方財政計画に財源不足が生じ、

やはり臨時財政対策債の発行⇒後年度の地方財政計画における公債費負担の増につながってしまいます。

まゆ
まゆ
このあたり、地方自治体の財政担当者にはピンときにくい論点ですよね。
自治体の財政課担当者からすれば、交付税だろうが臨財債だろうが、何でもいいから歳入が計上できればいいですからね。
たかし
たかし
まゆ
まゆ
臨財債の公債費も交付税措置されてるから大丈夫、となりがちですし…

住民税の減税がミクロの地方財政に与える影響

続いて、個別団体の財政運営にどのような影響が生じるかを、見ていきます。

おそらく多くの財政課担当者が興味があるのは、ここではないでしょうか。

こちらも、一番想像しやすいのは、住民税の減税により、個人住民税の収入額が減少するというという現象です。

なお、個人住民税の減収については、令和6年度にすべてが計上されるわけではありません。令和6年度課税であっても、個人住民税の特別徴収分については、月割りで入ってくることになりますので、翌年4・5月分については令和7年度の歳入となる点に留意が必要です。

ところで、この住民税の減収については、普通交付税が既に持っている財源保障機能により、特に何らの措置を講じなくても、一定の補てんがあります。

国の法律改正に基づく地方税の減収は、普通交付税の基準財政収入額に反映されますので、その75%は普通交付税の増という形で、わかりやすく補てんされることになります。

残る25%…いわゆる「留保財源」と呼ばれる部分については、直接的な補てんがないので見えにくいですが、マクロで見ると、俗に言う

税収減局面の留保財源見合い需要額の増

が起こりますので、普通交付税の基準財政需要額が全体的にうっすら増加し、結果として100%が補てんされるような格好になるのではないかと考えられます。

ただし、「100%補てんされるから大丈夫!」と安易に考えるわけにはいきません。このスキームには、注意事項が2つあります。

  1. 普通交付税の算定を通じた補てんは、不交付団体には及ばないこと
  2. マクロで見ると、財源補てんのために臨財債が使われており、後年度の地方財政計画を圧迫してしまうこと

このうち、①については分かりやすいでしょう。言うまでもなく、不交付団体には普通交付税が交付されませんので、普通交付税の財源保障機能による補てんについては、その恩恵を受けることができません。

まゆ
まゆ
なので、不交付団体にも財源補てんが及ぶよう、地方特例交付金による補てんが検討されているようですね。
過去に行われていた「定率減税」のときと同じスキームですね。
たかし
たかし
まゆ
まゆ
あのときは、減税補てん債とかもありましたね〜。

②は、個別団体の財政運営においてはあまり関係がないように感じてしまいますが、地方財政計画全体で見ると、臨財債の公債費の増は、地方財政計画の歳出を圧迫してしまい、後年度の地方財政計画の編成に支障を生じさせてしまいます。

まとめ

以上、本日は、国の経済対策で示された「減税」が地方財政に与える影響について、お話しいたしました。

国民にとってはありがたい「減税」ですが、地方財政運営の立場でみると「収入の減少」になり、これに伴う行政サービスを低下させないように気をつけなければなりません。

その際、減税の影響は、「マクロ」と「ミクロ」の2つの視点から見なければならないことに、注意が必要です。

個別団体の財政担当者は「ミクロ」のみの視点をもって「補てんされるから大丈夫!」と安易に思ってしまいがちですが、財政制度のことを真剣に考えるなら、それだけでは不十分で、「マクロ」でどのような影響が生じるかにも、思いを馳せる必要があります。

今回の減税について、どのように分析し、どのようなメッセージを発するか。そのときに、財政運営面で「マクロ」「ミクロ」両方の視点を持つことができるか。

ミクロの視点で見ると、一定の財源補てんが入るので、単年度の予算編成には影響がない。

一方で、マクロの視点でみると、その補てん財源を臨財債で見出してしまえば、後年度に地方財政計画に負担を生じさせてしまう…。

このあたりのことを、正しく理解して、予算編成や議会答弁などに反映できるか。

地方自治体の首長や財政課職員にとっては、まさに「地方財政リテラシー」が試される…そんな「減税」措置だと言えるでしょう。

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